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しまむらかずおが描くつれづれ(その17)  第81話~第85話

 

 

第81話 「たばこ」  by しまむらかずお

 

 

(注・この文の書き始めは10月16日でした)

 

今朝から今まで、

今日はたばこを吸ってない。

今はお昼前。

ちょっと自分を試している。

 

禁煙宣言はしていない。

「やめよう」という固い決意もない。

「嫌いになった」…訳じゃない。

ただちょっと自分を試している。

 

禁断症状って、どんなんかなあ。

どんなふうに襲ってくるんかなあ。

そんとき、自分はどんなに感じるんだろうなあ。

もしも苦しみを伴うなら、

せめてそんな楽しみに期待しよう。

 

「禁煙なんて簡単さ、俺はもう何度もやったさ」っていう

ジョークがあるが、

それほどにたばこをやめるのは難しいということなのだろう。

それが出来る強い意志を持つか、あるいは

「なんと言われようとやめないぞ」という、

いずれにしても強い意志が必要なのだ。

 

私の場合は後者のヘビースモーカー。

「歌手なのに…」とみんなからも言われるが、

レコーディング・スタジオの脇で吸ったりする。

 

…あっ、そろそろ、イラついてきたぞー。

昨夜は0時に寝たので、ちょうど12時間の無喫煙。

さっ、これからかな? 

憧れの禁断症状。さあおいで、出来ればさっさと通過してよね。

さて、その模様は、このあとに…

 

*

 

さて、今は夜の11時過ぎ。

これまでを報告しておこう。

 

別に気が狂いそうにはならなかったが、

何となくイライラの、イラぐらいを感じた。

その間に車の運転もしたが、

なんとなく後頭部が重い。

いつもより肩凝り感がある。

それにやたらと眠い。

やっぱり、たばこには強い覚醒作用があるようだ。

 

あまりにぼやーっとしているので

車の中に置き忘れたような一本を見つけて

火をつけた。

むせるかも、と思ったが、そうでもなかった。

三息ぐらい吸ってやめたが、

お蔭で覚醒した感じだった。

それが、確か午後4時ぐらいだったので

それからすでに7時間が過ぎている。

 

やったもんだ。

一日目としては、いい成績だ。

問題は、これからの夜、一晩、

一服もしないでいられるかどうかだ。

夜中に、どうしよーもなくなってコンビニに走る、

なんてことにならないだろうか。

なんてたって強い意志の持主だからなあ。

ちょっと心配だあ。

早く寝よっと。

 

またのちほど報告するね。

おやすみなさい。

 

*

 

と、いう訳で、朝を迎えた。

昨夜は、布団に入ったがなかなか寝付かれず

リビングに出て、残り物を肴に水割りを飲んで

ソファで寝た。

寝苦しかったのは、ニコチン切れのせいかどうかは分からない。

 

で、今は、何だか頭がボーッとしている。

朝方、ボッーとしているのはいつものこと。

これもニコチン切れのせいかどうかはわからない。

が、顔をかきむしりたくなるぐらいにボヤーッとしている。

その点がいつもと違う気がする。

気のせいかも知れない。

 

*

 

と、ここまで書いて、筆がピタリと止まってた。

こんな文章を書いていたことも忘れていた。

今は11月15日の夜。

その日から丁度1か月。

その後どうなったかを報告しなくてはなるまい。

 

この「たばこ」のエッセイから5日後には、

毎年10月の私のリサイタルがあり、

「十月桜の夢歌」と題した大きな舞台があった。

お蔭様で180席を一杯にした皆さん方と

いい時間を過ごすことが出来た。

関係者にも心から感謝したい。

 

ま、それはともかく、

無喫煙2日目の朝で筆が止まっていたのだった。

期待した禁断症状=吸いたい、吸いたいの衝動はなかったが、

頭がボヤボヤしてしょうがなかった。

いわゆる「ボヤボヤするな!」、のボヤボヤである。

リサイタル寸前だというのに、その準備がはかどらない。

何をしておかねばならないかがハッキリしない。

パソコンに向かってもラチがあかない。

場内パンフやアンケートの製作など

事務的な作業が沢山あるはずなのに、

いわゆる頭の巡りが悪い。

こんなことは初めてだった。

そうか…これが無喫煙の症状なんだ。

と、自覚した。

 

で、私はこう考えた。

こんなこと、こんなときにしなくても…。

ま、それはハナから分かってたことだった。

きっかけは、声を大事にしとかなきゃ、の思いからだった。

それはそうだけど、このままボヤボヤしてたら

まともなコンサートもできない。

 

そう思って、その夜、いわば2日目の夜。

たばこを口にした。

「ウマイ!」と、さほどには思わなかったし、

むせ込むこともなく、ごくフツーに、たばこは復活した。

やや本数は減ったが、お蔭で事務作業はスムーズに進んだ。

「リサイタルが終わったら、またやってみよう」。

それがその日の思いだった。

 

で、今は、あれから1カ月。

やめることも、休むことも、減らすこともなく、

以前と同様に、たばこを吹かしながら、この文を書いている。

ま、完全復活ってヤツだ。

また例のジョークが頭に浮かぶ。

「禁煙なんて簡単さ、俺はもう何度もやったさ」。

 

何ごとも初めての体験は貴重である。

また、思い立ったら、いつでもやってやる。

何度もやめて、何度も復活させる。

またひとつ勉強になった。

 

                   (2016.11.15)